夢の中で生きる「自分」に意思を伝える現実の中で生きる「自分」。

densiro2006-02-18

「1000Gへ来い。」



その男はおれにそう告げると、人の間を流れるように縫っていき、姿を消した。
1000Gとは部屋のことである。
ここ「KINGS PALACE」では何故か部屋番号に「G」をつけている。
その理由は未だにわからない。








「すみません。1000Gってどこですか?」


えんじ色のシャツに黒のベストを着た、小太りのポーターに尋ねた。


「僕も未だにその部屋に足を踏み入れたことはないんですよ。でも、場所ならわかります。すぐ、そこです。」


ポーターの指差す方向に目を向ける。
そこにはただ、巨大な白い壁があるだけである。
と思った矢先、不自然な場所に受付嬢らしき女性が2人いるのに気づく。
透き通る様な白色の生地に金色の唐草模様をあしらったスーツを着ている。


「お待ちしておりました。」


その内の一人が頭を下げておれを導く。


「こちらです。」


と彼女が口を開いた途端、「開けゴマ」とでも言ったかのように、先ほどの白い壁が開きだした。
その扉の開く姿と言えば何とも壮観である。
白い大理石で出来た床一面に広がる重層なじゅうたんが目に入ってきた。
それは赤ワインと血を混ぜた様な色で、厚さ2センチはあると思われる。


扉が開ききるのと同時に、白のシャツに黒のベストを着た男が一人立っているのに気づく。
左目を黒いアイマスクで覆い、先端がクルーンとなった黒いチョビヒゲを鼻下に蓄えている。


「お遊び気分のお坊ちゃんはここから先は進めません。責任を持てますか?」


「大丈夫です。行けます。」


体が勝手に言葉を発した。


「わかりました。」


男はニヤッと口元に笑顔を浮かべるとパンパンと2回手を叩いた。



部屋が真っ二つに割れおれは、空のような空間に放り出された。









「未来へようこそ。」



その言葉におれは酷く戸惑った。
かなり焦ったのを覚えてる。
夢の中の「自分」とは別に現実の中の「自分」の意識もそこにはあった。
ここで目を開けてはいけない。
現実の世界に生きる「自分」はそれを強く感じた。
ここで目を開けたら「自分」が未来に行ってしまうような気がした。
踏んではならない空間を踏んでしまう気がした。
自らの意思を夢の中の「自分」に伝えるとおれは夢から去った。









夢の中の「自分」は未来を見た。


「これが未来か。」


気持ちよかった。
未来は想像していたよりも美しかった。
ものすごいスピードでおれは未来の街を低空飛行しながら眺めた。
生暖かい風が気持ちよく感じた。
















これ夢の中の話。






閉店。